「だめーーーっ!」
「う〜ん…困ったね」
片方の手はしっかり握られ、もう片方の手はやんわりと掴まれている。
「おれも一緒に昼飯食いたい!」
「でも火原。今日はお弁当じゃないんだろう?」
「う゛」
「さんと一緒に待っているから、先に買っておいでよ」
普段であればすぐに頷いて購買に走っていく彼だけど、今日は…引かない。
「〜〜〜〜じゃあおれ今日昼飯いらないっ!」
「…」
半分泣きそうな顔であたしの手を握って首を振る火原先輩。
困ったように火原先輩を見ながらも、あたしの手を離そうとしない柚木先輩。
このままじゃお弁当を食べずに午後の授業を受ける事になってしまう。
それは先輩達も大変だけど…今にも鳴り出しそうなお腹を抱えたあたしは更に、大変だ。
その事態を打破すべく、思いついたことを口にしてみる。
「あのぉ…お弁当、半分こしますか?」
「え?」
「え…えーーーー!?」
「今日少し多めに作って来ましたし、このままじゃ先輩たち昼食抜きになっちゃいますよ?」
「いいの!?」
「はい」
「やったーっ!ありがとう、ちゃん!」
ぱぁっと花咲くような笑顔を見せる火原先輩。
柚木先輩は少し何かを考えるような仕草を見せた後、苦笑しつつも掴んでいた手を離してくれた。
「それじゃあ屋上に行こうか…あ、火原、靴紐がほどけてるよ?」
「え?あ、本当だ…」
靴紐を結ぶため、火原先輩の手が離れたことで、ようやく自由になった身体。
掴まれていた手を軽くぷらぷら揺らしていると、不意に耳元に落とされた…声。
「…で?火原が弁当なら、俺には何をくれるつもりかな?」
「!?」
「まさか同じもの…なんて言うつもりじゃないだろうね」
「え…あ、あのっ…」
目の前では火原先輩が、慌てたせいで固結びになった紐を一生懸命ほどいている。
でもそれよりも何よりも、耳元から聞こえる声に…背筋が自然と伸びる。
「さて…お前は俺に、何をくれるのかな?」
「い、今は何も…」
「じゃあ、放課後のお楽しみ…だな」
火原先輩が結び終えて立ち上がるより先に、さり気なく触れられた髪。
そこに神経があるわけじゃないけれど、妙にドキッとしてしまった。
よく、弁当箱を落とさなかった自分…と、ちょっと褒めてあげたい。
「よし、出来たー!」
「それじゃあ、楽しみにしているよ、さん」
「え?なになに?」
「さんとお弁当の話を…ね」
「えーっ、おれも聞きたいよ!」
「火原は、今からご馳走になるんだろう?」
「あ、そっか…」
――― ホント、ある意味この人尊敬するな…
柚木先輩の変わり身に感心して立ち尽くしていると、火原先輩が笑顔で手を差し伸べてくれた。
「お待たせ、ちゃん。さ、行こう!」
「行こうか、さん」
火原先輩同様手を差し伸べてくれる柚木先輩からは、さっきまでの怪しげな笑みなんて微塵も感じられない。
どこからどうみても、誰もが憧れる優等生の微笑み…だ。
大好きな二人と過ごす時間は楽しいけれど、ちょっとだけ…スリリング?
VSシリーズ…ってタイトルで押し通します!
今回は3Bコンビです。
あり得そうで、あり得ない現場…みたいな(苦笑)
でもちょっとした隙に黒を見せる柚木先輩ってのは、あると思います。
更に、焦って靴紐が固結びになっちゃう火原先輩ってのは、物凄くあると思います!
この後、屋上で皆でお弁当を食べるんですが…柚木様親衛隊も、ついてくるんでしょうかねぇ(苦笑)